鍼灸治療の禁忌(Contraindications)

鍼灸治療は適切に行えば比較的安全な治療法ですが、患者の状態や病態によっては禁忌とされる場合があります。これらは施術者が事前に評価し、安全性を確保する必要があります。


1.絶対的禁忌(施術を行ってはいけない状態)

🔹 1)緊急性・救急対応が必要な状態

外科的救急(急性腹症、外傷性出血など)や救急治療優先の状態は鍼灸治療の対象ではありません。鍼灸は救急措置として用いるべきではないとされます。

🔹 2)重度の感染症・炎症

活動性の感染症(発熱を伴う全身性感染、皮膚の重度感染・化膿部位)は施術禁忌です(刺鍼による病変悪化・感染拡大のリスク)。

🔹 3)重度の血液疾患・出血性疾患

血友病、重度の凝固障害、出血性疾患、抗凝固薬の影響が強い場合などは、刺鍼による出血・血腫リスクが高く禁忌とされることがあります(WHOガイドラインでも言及)。

🔹 4)不安定な重大疾患

重度の心疾患、重度の動脈硬化症や動脈瘤:循環動態の不安定性を有する患者の鍼灸は注意深い評価が必要です。

🔹 5)精神・神経面の重大な不安定

重度精神疾患(例:精神病状態)や患者協力が得られない状態は安全上の禁忌です。


2.相対的禁忌(慎重に評価・調整が必要な状況)

以下のような状態は必ずしも絶対禁忌ではありませんが、慎重な判断および医師との連携が必要です。

🔹 1)妊婦・妊娠特有の経穴

妊娠初期(特に下腹部・腰仙部)、特定経穴(子宮収縮誘発の可能性あるポイント)は慎重施術や回避が推奨されます。WHO伝統的ガイドラインでは妊婦の腹部・腰部の鍼刺激は避けるべきとされています。

🔹 2)免疫不全・易感染状態

重度の免疫低下(例:高度の白血球減少、ステロイド長期使用)の場合、感染リスクや創部合併症の可能性が高まるため注意が必要です。

🔹 3)局所の皮膚障害・疾患

皮膚に炎症、潰瘍、重度の皮膚疾患がある部位への刺鍼は避けるべきです(感染・痛み悪化のおそれ)。

🔹 4)高熱・急性全身状態不良

高熱(原因不明、感染性)、極度の疲労、飲酒直後などは施術効果が予測困難で、慎重対応です。

🔹 5)神経疾患・骨折・解剖学的リスク

骨折や不安定な関節・脊椎不安定状態がある場合、刺鍼は重大な合併症(神経損傷等)のリスクになります。詳細な評価が必要です。


3.治療部位上の禁忌(部位・解剖学的注意)

刺鍼・灸において、局所の危険部位や深刺が重大な合併症につながる部位への施術は実質的な禁忌または高度な注意が必要です:

  • 目の周囲(視神経・眼球損傷リスク)
  • 腋窩(大血管・リンパ集積部位)
  • 胸背部の深刺部位(気胸リスク)
  • 乳房周囲(乳腺・血管密集)

4.鍼灸全般の安全管理と評価ポイント

禁忌判断に加え、施術前の全面的な評価(病歴・内服薬・体調・既往)が安全な鍼灸治療には不可欠です。また、感染対策や滅菌手技、解剖学的知識は有害事象予防に直結します。


5.WHOによる禁忌関連のガイドラインについて

WHOの鍼灸安全ガイドラインや国際的研究者会議の報告では、鍼灸を行うべきでない状態や慎重対応すべき病態について言及されており、特に以下が強調されています:

  • 出血性疾患・抗凝固薬治療例の出血リスク
  • 妊娠特有の部位・時期の施術制限
  • 救急対応を要する病態では鍼灸は不適切

(WHOガイドライン自体は包括的安全指針として各国鍼灸安全マニュアルの基礎に位置づけられています)


6.まとめ:禁忌カテゴリー

カテゴリー 代表的禁忌例
絶対的禁忌 緊急性疾患、重度感染、出血性疾患、循環不安定性、重度精神不安定など
相対的禁忌 妊婦・妊娠特定経穴、免疫不全、高熱、局所皮膚病変、骨折など
部位上の禁忌 眼周囲、腋窩、胸背部深刺、乳房周囲など深刺リスク部位

このように鍼灸治療は比較的安全性が高い反面、適応を見誤ると合併症や悪化のリスクがあるため、禁忌や慎重適応の知識を持ち、安全管理を徹底することが臨床の基本となります。

SATOセラピストスクール代表
鍼灸師|鍼灸専門学校の教員資格保有

長年にわたる技術指導やスタッフ教育の経験を活かし、「わかりやすく」「実践に取り入れやすい」セミナーの開催を心がけています。

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