かかとの痛み(heel pain)の原因・病態・治療

かかと(踵骨周囲)の痛みは日常生活や歩行に大きな支障を来す代表的な疾患症状です。西洋医学では構造的・生理的原因から評価・治療法が組み立てられ、東洋医学では体全体のバランスや気血の流れと関連づけて痛みの本質を捉えます。両者の観点を整理し、専門的に解説します。


1.かかとの痛みの主な西洋医学的病態

かかとの痛みは単一疾患ではなく、多数の病態の結果として生じる症状です。代表的な原因として以下が挙げられています:

1‑1.足底筋膜炎(Plantar fasciitis/fasciopathy)

足底筋膜(プラントアファシア)の付着部に微小損傷や退行変性が起こり、疼痛が発生します。組織学的には慢性炎症とは異なる変性変化(fasciosis)的病変が主体とされる報告もあります。

  • 臨床像:朝の第一歩の鋭い疼痛、歩行・立位時のかかと部痛
  • リスク因子:長時間の立位、過度の運動、扁平足・肥満、踵骨棘など
  • 足底筋膜炎はHeel Painの中で最頻度の原因とされ、その他にも脂肪体委縮(Fat Pad Atrophy)や神経圧迫、骨関連病変などが鑑別に必要です。

1‑2.アキレス腱炎・踵骨骨端炎

かかとの後方痛としてアキレス腱の付着部炎症や成長期の骨端炎(Sever病)がみられることがあります。

1‑3.その他の稀な原因

骨折・感染・悪性腫瘍など、痛みがかかとに限局しない全身症状を伴う疾患も鑑別に含まれます。

2.西洋医学的治療法

2‑1.保存療法(First‑line conservative care)

  • 安静・活動修正:痛みの増悪因子を避け、負荷を軽減
  • 靴・インソール調整:クッション性・アーチサポートの改善
  • ストレッチ・理学療法:足底筋膜・アキレス腱の柔軟性改善
  • 薬物療法:NSAIDsによる疼痛・炎症コントロール
  • 物理療法:超音波・衝撃波療法など

※病態により治療戦略は変わります。慢性化した筋膜変性の場合、単純な抗炎症治療だけでは改善までに時間が必要です。

3.東洋医学のかかとの痛みの病態理解

東洋医学(伝統中国医学)では、西洋医学のような組織レベルの構造病変だけでなく、全身の気・血・津液の循環と経絡の不通が痛みを引き起こす根本原因と考えます。

3‑1.不通即痛(ふつうそくつう)

「通じざれば即ち痛む」という原理に立ち、気血の停滞・循環異常が痛みの本態であると捉えます。足底に限定された炎症だけでなく、身体全体のエネルギーバランスや臓腑機能の低下が痛みの発生に関与すると考えます。

3‑2.経絡と臓腑の関与

  • 足底は腎経(Kidney Meridian)が通り、下肢の支持機能や体力を司る経絡とされます。
  • 気血が滞ると経絡の流れが阻害され、疼痛や機能低下を誘発します。
  • 「寒邪」「湿邪」などの病理概念が加わると、疼痛が強調されるとされることもあります。

4.東洋医学的治療アプローチ

東洋医学では、かかと痛に対して全身的治療と局所治療を組み合わせることが基本です。

4‑1.鍼灸療法

鍼(はり)は局所の気血循環を改善し、経絡の流れを調整するとされます。

  • 臨床研究では、鍼治療がPlantar fasciitisの疼痛スコアや圧痛閾値を有意に改善したとする報告もあります。

ツボ例:

  • 腎経・足底関連点
  • 局所近傍ツボ(足底・内外踵点)
  • 全身の気血調整点
  • ※灸(もぐさによる温熱刺激)も循環改善を目的に用いることがありますが、温熱刺激の適応・禁忌は慎重に判断します。

4‑2.漢方薬・外用薬

  • 漢方処方は全身の気血バランスを整える目的で用いられます。
  • 外用では伝統的な薬膏(例:Zheng Gu Shui)のように、血行促進・瘀血除去を狙う外用薬も使用されることがあります。

4‑3.推拿・経絡マッサージ

筋・筋膜の緊張解放と経絡刺激を組み合わせ、生体の循環を改善し疼痛緩和に導きます

5.西洋医学 × 東洋医学の統合治療

かかとの痛みは単独の疾患ではなく複数の機序・因子が介在します。
西洋医学の解剖学・病理機序と、東洋医学の気血循環・経絡調整を統合することで、痛みの緩和と再発予防につながる可能性が示唆されています。

例)

  • 鍼灸により循環改善を図りながら、理学療法で筋膜柔軟性と生体力学の改善を同時に目指す
  • 日常生活動作の修正と体質改善を並行する

まとめ:痛みの複合的理解と治療戦略

観点 西洋医学 東洋医学
病態理解 組織・解剖的病変、炎症・変性 気血循環の停滞、経絡の不通
主な疾患モデル 足底筋膜炎、脂肪体委縮、神経圧迫 不通即痛、経絡障害
主要治療 安静・理学療法・薬物・物理療法 鍼灸・推拿・漢方・外用薬
治療スタンス 局所病変の治療 全身バランスの改善

両者を独立した選択肢ではなく補完関係として捉えることで、個々の症例に対応した柔軟な治療設計が可能となります。


参考文献・引用

  • Im Yi T, et al. Clinical Characteristics of the Causes of Plantar Heel Pain. Ann Rehabil Med. 2011;35(4):507‑513.
  • Zhang SP. Acupuncture Treatment for Plantar Fasciitis. PMC. 2011.
  • Chen BX, Zhao YL. Treatment of painful heel with combined method of traditional Chinese medicine and western medicine. Chin Med J (Engl). 1985.
  • 足底筋膜炎・足底腱膜炎解説ページ.
  • 足底筋膜炎の東洋医学的捉え方(不通即痛ほか).
  • Zheng Gu Shui(中医外用薬).
  • Moxibustion(灸の基礎).

SATOセラピストスクール代表
鍼灸師|鍼灸専門学校の教員資格保有

長年にわたる技術指導やスタッフ教育の経験を活かし、「わかりやすく」「実践に取り入れやすい」セミナーの開催を心がけています。

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

最近の記事
  1. 鍼灸治療の禁忌(Contraindications)

  2. かかとの痛み(heel pain)の原因・病態・治療

  3. 肩関節周囲炎に対する整体・オイルトリートメントの施術アプローチ

  4. 肩関節周囲炎(いわゆる“四十肩・五十肩”)の東洋医学的アプローチ

  5. 痛みとは何か:東洋医学と西洋医学の視点

  6. 五十肩診療の実際:鑑別診断から統合ケアまでのアプローチ

Instagram でフォロー
PAGE TOP