以下に、セラピースクール向けに「前庭障害(vestibular dysfunction)」の定義、分類、主な疾患、診断、治療までを専門的に整理します。
■ 定義
前庭障害とは、内耳の前庭系(半規管・耳石器)や前庭神経、および中枢前庭経路の機能障害によって、平衡感覚の異常をきたす病態を指します。
前庭系は、頭の動きや重力方向を検知して姿勢・眼球運動を制御するため、その障害はめまい・平衡障害・眼振などに直結します。
■ 分類
| 類別 | 説明 |
|---|---|
| 末梢性前庭障害 | 内耳(半規管・耳石器)および前庭神経が原因 |
| 中枢性前庭障害 | 脳幹・小脳など中枢の前庭経路(前庭核~大脳)に病変 |
| 両側性前庭障害 | 両側の前庭機能低下(例:アミノグリコシド中毒※1など) |
| 機能性・心理的前庭障害 | 身体所見は軽度または正常だが強い自覚的症状 |
※1 アミノグリコシド中毒とは、アミノグリコシド系抗生物質(例:ゲンタマイシン、アミカシン、トブラマイシンなど)を過剰に使用、または長期間使用したことによって起こる有害反応のことを指す。
■ 主な前庭障害の原因疾患
| 分類 | 疾患名 | 特徴 |
|---|---|---|
| 末梢性 | BPPV(良性発作性頭位めまい症) | 頭位変換で数十秒の回転性めまい。耳石の迷入が原因 |
| 末梢性 | メニエール病 | 発作性のめまい+耳鳴・難聴・耳閉感 |
| 末梢性 | 前庭神経炎 | 感染後に片側の前庭神経が炎症。聴力は保たれる |
| 中枢性 | 小脳梗塞、小脳出血 | 持続性のめまい、運動失調、眼振の特徴が異なる |
| 両側性 | 両側前庭障害 | 歩行困難・暗所でのふらつき。例:アミノグリコシド中毒 |
| 機能性 | PPPD(持続性知覚性姿勢誘発めまい) | ストレスや不安からの慢性浮動性めまい |
■ 主な症状
- 回転性・非回転性めまい(持続 or 発作性)
- 浮動感・歩行時ふらつき
- 眼振(末梢性:水平回旋性、中枢性:垂直・方向変化性)
- 嘔気・冷汗・不安感
- 平衡感覚の異常(ロムベルグ陽性、歩行障害)
■ 診断手法
| 検査名 | 目的・所見 |
|---|---|
| Dix-Hallpike検査 | BPPVの診断。誘発性眼振 |
| ヘッドインパルス検査(HIT) | VOR(前庭動眼反射)の評価 |
| 温度刺激検査(カロリックテスト) | 半規管反応性の確認 |
| VEMP(前庭誘発筋電位) | 耳石器の機能評価(saccule, utricle) |
| MRI | 中枢性病変の除外(脳幹・小脳など) |
■ 治療アプローチ
| 疾患 | 治療法 |
|---|---|
| BPPV | 耳石置換法(エプレイ法等) |
| メニエール病 | 利尿薬、減塩、ベタヒスチン、漢方 |
| 前庭神経炎 | ステロイド、制吐薬、前庭リハビリ |
| 中枢性病変 | 原因疾患に応じた対応(脳卒中治療等) |
| PPPD | 認知行動療法、SSRI/SNRI、前庭リハビリ |
■ 前庭リハビリテーション(Vestibular Rehabilitation)
- 前庭代償を促進し、歩行やバランス機能を回復させる理学療法
- 固視訓練、頭部運動訓練、姿勢安定訓練など
まとめ
前庭障害は原因の多様性と症状の主観的強さから診断が難しいことがありますが、眼振の特徴・平衡機能評価・画像診断を組み合わせることで、末梢性か中枢性かの鑑別が可能です。
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