「最近、膣が乾いて違和感がある…」「口の中がネバついて話しづらい…」
それ、もしかすると更年期による“粘膜の乾燥”が原因かもしれません。
閉経前後の女性の体は、目に見えない部分で少しずつ変化しています。なかでも膣・尿道・口腔などの“粘膜”の潤いが失われることで、さまざまな不快感が現れることがあります。けれども、適切な知識とケアを取り入れれば、症状は軽減できるのです。
このコラムでは、西洋医学と東洋医学の両視点から更年期の粘膜乾燥にアプローチし、今日から実践できる養生法をご紹介します。
1.西洋医学的視点
(1) 病態・メカニズム
更年期/閉経前後には、卵巣機能低下によるエストロゲン分泌の減少が起こります。これが膣・尿路・口腔などの粘膜を乾燥させる主な要因とされています。 Harvard Health+4NCBI+4Cleveland Clinic+4
例えば、膣粘膜では「Genitourinary syndrome of menopause(GSM)」という概念があり、エストロゲン低下が膣壁を薄く・乾燥・弾力低下させ、潤滑が不足・痛み・かゆみ・排尿症状などをもたらします。 Cleveland Clinic
口腔粘膜でも、エストロゲン低下によって唾液量が減少し、「口が乾く」「食べにくい」「話しづらい」などの症状が出るという報告があります。 PMC
粘膜乾燥が進むと、粘膜自体の防御機能(潤滑・バリア機能・血流)が低下し、感染リスク(膣炎・尿路感染・口腔内トラブル)や痛み・かゆみ・活動制限などにつながることがあります。 Mayo Clinic+1
(2) 治療法
① 薬物療法・ホルモン療法
- 膣粘膜乾燥が目立つ場合、膣局所エストロゲン療法(クリーム・錠剤・リングなど)を用い、粘膜の厚み・潤滑・血流を改善する方法があります。 PMC+1
- 全身的なホルモン補充療法(HRT:ホルモン補充療法)も、粘膜乾燥を含む更年期症状への対応として検討されることがあります。 Mayo Clinic+1
- 非ホルモン的アプローチとして、潤滑剤(膣潤滑剤)・保湿剤・口腔用保湿スプレー等も対症療法として用いられます。 AAFP
② 生活習慣・ケア的介入
- 膣・尿路においては、定期的な性活動・あるいは膣への血流を促す運動・ストレッチが粘膜健康に資するとされています。 Mayo Clinic
- 口腔乾燥では、唾液分泌を促す刺激(咀嚼・ガム・水分補給)および口腔衛生を保つことが重要です。
- 一般的な健康管理として、十分な水分摂取・バランスの取れた栄養・禁煙・適度な運動などが粘膜環境維持に有効です。
(3) 養生・予防法
- 粘膜を乾燥させないために、室内環境(乾燥・暖房・冷房)を整える。
- 性交渉時・膣トラブル時には潤滑剤を使用し、無理をしないこと。
- 口腔ケアを丁寧に、定期的な歯科・口腔検診を受ける。
- 体重管理・禁煙・規則正しい生活・ストレス軽減を心がける。
- 粘膜の不快感・痛み・排尿変化などがあれば早めに婦人科・泌尿器科・歯科など専門医に相談すること。
2.東洋医学的視点(中医学・漢方・鍼灸)
(1) 病態・診断理論
東洋医学では、更年期における粘膜乾燥を「腎陰(じんいん)・腎精(じんせい)」の不足、あるいは「陰虚(いんきょ)=体内の“潤い”が失われる状態」と捉えます。更年期には腎の機能が衰え、陰が減少し、潤いが失われやすいとされます。 サイエンスダイレクト+1
また「肝気鬱結(かんきうっけつ)」「血虚(けっきょ)」「瘀血(おけつ)」などの気血の滞り・流れの悪さも粘膜乾燥・かゆみ・痛み・かすれなどに関与するとされます。
乾燥・熱感・痒みをともなう粘膜症状は、中医学では「陰虚火旺(いんきょかおう)=陰が不足して陽(熱)が相対的に旺盛になる」状態とも解釈されることがあります。これにより「口が渇く」「膣が乾く」「尿が頻になる」などの症状が出やすいとされます。
(2) 治療法(鍼灸・漢方・養生)
① 鍼灸・経絡治療
鍼灸では、潤いを補う・気血の巡りを促す穴位(例えば「腎俞」「命門」「三陰交」「足三里」など)が用いられることがあります。
温灸・温熱療法・灸頭鍼などを使い、冷え・湿気・凝りを取り除き、下半身・腰部・骨盤周りの血流を改善することで、粘膜の潤い維持を図るアプローチがあります。
② 漢方・和方
粘膜乾燥の体質に対しては、「補腎陰」「養陰潤燥」「活血化瘀」などの方剤が適応されることがあります。例えば陰虚証+熱感を伴う場合の「滋陰降火」処方など。 Yi TCM+1
漢方は個々の証(体質・症状)に応じて選択されるため、医師または漢方専門家の診察が推奨されます。
③ 養生・食養生・運動養生
- 潤いを保つために、冷たい飲食・生ものを控え、温性・潤性の食材(黒ゴマ・黒豆・白キクラゲ・梨・ハチミツ・鶏肉など)を取り入れる。
- 体を冷やさない:特に腰・下腹部・骨盤周辺を冷やさず、暖かく保つ。足湯・腰湯・レッグウォーマー等。
- 適度に体を動かし、氣血を巡らせる:散歩・太極拳・ゆる体操など。ストレスをためず、肝気を巡らせる習慣も大切。
- 睡眠・心身の休養を重視し、「陰」を消耗させる夜更かし・過度な活動を控える。
3.両視点の統合と実践的アドバイス
(1) 病態理解の融合
更年期における粘膜乾燥は、西洋医学的には「エストロゲン低下による粘膜/組織の萎縮・潤滑減少・血流低下」が基盤です。一方、東洋医学的には「腎陰の衰え・潤い不足・気血の停滞・熱の過剰(陰虚火旺)」として理解されます。両者を統合すると、潤いの枯渇+血流循環低下+生活習慣(冷え・ストレス・運動不足)という多重要因が粘膜乾燥の背景にあると言えます。
(2) 治療・ケアの融合的アプローチ
西洋医学的には、膣局所エストロゲン療法や潤滑剤・保湿ケア・生活習慣改善が基本です。
東洋医学的には、鍼灸・漢方・食養生・冷え対策・体質改善を併用することで、潤いを内側から支えるケアが可能です。
日常的には、「下半身・骨盤周囲を冷やさない」「適度な運動+ストレッチ+ウォーキング」「質の良い睡眠とストレス軽減」「潤いを補う栄養・飲食」「潤滑・保湿ケアを習慣化」などを組み合わせると効果的です。
(3) 実践的な養生ポイント(チェックリスト形式)
□ 骨盤・下腹部・下半身を冷やさない(冬は腹巻・足湯/夏も冷房対策)
□ 週2〜3回、20〜30分の軽運動(ウォーキング・ストレッチ)を行う
□ 栄養を整える:たんぱく質・潤性食材(黒ゴマ・黒豆・白キクラゲ・梨など)・ビタミン・ミネラルを意識
□ 性交時・排尿時・日常で粘膜乾燥を感じたら潤滑剤・保湿剤を使用
□ 夜更かしを避け、6〜7時間の質の良い睡眠を確保
□ ストレスをためず、リラックス・深呼吸・軽い散歩などで肝気を巡らせる
□ 定期的に婦人科・泌尿器科・漢方/鍼灸の専門相談を検討
(4) 注意すべき点
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粘膜乾燥が強く、性交痛・頻尿・排尿痛・出血・悪臭・感染症を伴う場合には、単なる更年期変化だけでなく、萎縮性膣炎・尿路感染症・婦人科腫瘍などの可能性もあるため、専門医の診察が必要です。 Mount Sinai Health System+1
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ホルモン療法(特に全身HRT・局所エストロゲン)には個人のリスク・禁忌(乳がん既往・血栓高リスクなど)があります。治療を始める前に婦人科・専門医と充分相談を。 アコグ
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漢方・鍼灸など東洋医学的療法も「体質・証」の違いによって合う・合わないがあります。信頼できる漢方医・鍼灸師のもとで取り入れることをおすすめします。
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養生・運動・食事を行っても症状が改善しない場合には、早めに専門医を受診してください。
4.まとめ
更年期における粘膜の乾燥は、多くの女性が経験するものです。ですが、「我慢するしかない」と諦める必要はありません。西洋医学のエストロゲン低下による粘膜萎縮の理解と、東洋医学の潤い・腎陰・気血・体質の理解を組み合わせることで、より総合的なケアが可能です。
まずは日常生活で「潤いを守る習慣」から始め、必要に応じて婦人科・泌尿器科・漢方・鍼灸など専門的アプローチを取り入れてみてください。あなたの体に合った方法で、快適な毎日を過ごす一助となれば幸いです。
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