更年期とは、閉経を挟んだ前後の約10年間を指し、女性の体と心にさまざまな変化が現れる時期です。中でも関節痛は、見過ごされがちですが多くの女性が抱える不調の一つです。
本コラムでは、西洋医学と東洋医学の両方の視点から、更年期に起こる関節痛の原因と対処法、そして日常生活で実践できる養生法をご紹介します。
1.西洋医学的視点
(1) 病態・メカニズム
更年期(閉経前後~閉経後)には、卵巣機能の低下によるエストロゲン(および一部テストステロン等)分泌の減少・変動が生じます。 メディカルニューストゥデイ+2PubMed+2
エストロゲンは関節・軟骨・滑膜・骨・筋肉などに対して保護的・抗炎症的な作用を有することが報告されています。例えば、関節の滑膜・軟骨がエストロゲンの受容体を持っており、エストロゲン欠乏によって変性・炎症・疼痛が促され得るという記述があります。 Physiopedia+2MDPI+2
閉経後女性において、軟骨の分解、骨・関節の老化促進、筋量(筋肉量)減少(サルコペニア)・筋力低下、関節を支える周辺組織(筋・靭帯・腱)の弱化も関与します。 PubMed+1
このような背景から、手・膝・腰・股関節などに「関節痛」「こわばり」「動きにくさ」「可動域低下」を訴える女性が多く、しばしば「更年期性関節症状(musculoskeletal syndrome of menopause)」という概念も提起されています。 Taylor & Francis Online
具体的には、エストロゲン低下 → 滑膜液・関節軟骨の潤滑・修復機能低下 → 軟骨変性・骨変化 → 関節痛・こわばり・機能低下、という流れがイメージされます。例えば、膝の変形性関節症(OA)との関連が指摘されています。 MDPI+1
また、疼痛の感じやすさ(痛覚過敏)・炎症反応・体重増加・運動量低下といった生活因子もこの時期に影響を与え、関節痛を増悪させるリスクとなります。 メディカルニューストゥデイ
診断上の注意点として、関節痛が膠原病(例:関節リウマチ)や明確な変形性関節症(OA)によるものと誤認されがちですが、閉経期・更年期背景を持つ女性では「更年期関連関節痛」という別の概念も念頭に置くべきという整理があります。 Physiopedia
(2) 治療法
① 薬物療法・ホルモン療法
閉経後のホルモン補充療法(HRT:ホルモン補充療法、特にエストロゲン+プロゲステロン併用)は、骨・関節・筋肉に有益な影響がある可能性がありますが、関節痛そのものに対するエビデンスはまだ確立されていません。 PubMed+1
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や鎮痛薬などの対症療法も痛みが強い場合には用いられます。 メディカルニューストゥデイ
② 非薬物療法・生活習慣的介入
- 運動療法:関節を動かすことで関節可動域を保ち、筋力を維持・増強させることが推奨されています。ウォーキング、ストレッチ、筋力トレーニング、水中運動などが示唆されています。 メディカルニューストゥデイ
- 体重管理:体重が増えると特に下肢・膝関節に負荷がかかり、痛みを誘発・悪化させるため、肥満傾向がある場合には減量が重要です。 The Menopause Charity
- 栄養管理:カルシウム・ビタミンD・タンパク質・適切な抗酸化栄養素(野菜・果物)などが骨・関節・筋肉の健康維持に関わります。 メディカルニューストゥデイ
- 理学療法・リハビリ:関節のこわばり・可動域制限・筋力低下がある場合には、物理療法(温熱・超音波・徒手療法)、運動指導による補助が有効です。 Ortho Rhode Island
③ 関節・骨格疾患対応
更年期期以降に明確な変形性関節症(OA)や関節リウマチなどが進行している場合には、整形外科・リウマチ専門医による評価・治療(関節鏡・ヒアルロン酸注入・生物学的製剤等)も検討されます。 MDPI+1
(3) 養生・予防法
- 定期的に身体を動かすこと(週2〜3回以上、筋力・柔軟・有酸素を組み合わせる)
- 適正体重を維持する(BMI管理、脂肪過多・体重増加を避ける)
- 筋肉量・筋力を維持する(中年以降ではサルコペニア対策が重要)
- バランスの良い食事 — 高タンパク、カルシウム・ビタミンD・オメガ3脂肪酸・野菜・果物を豊富に
- 関節に過度な負荷をかけず、良い姿勢・正しい動作(スクワット・階段昇降など)を意識
- こまめなストレッチ・関節可動域運動でこわばりを防止
- 睡眠・ストレス管理:慢性的な痛みには心理的要因・睡眠障害・ストレスが悪影響を及ぼすため、質の良い睡眠・リラクゼーションも重要。 PubMed+1
2.東洋医学的視点(中医学・漢方・鍼灸)
(1) 病態・診断理論
東洋医学(中医学・漢方)では、閉経・更年期は「腎(じん)精/腎気(じんき)」「陰陽(いんよう)」「肝気(かんき)」「血(けつ)/気(き)」「経絡(けいらく)・筋(きん)・関節(かんせつ)」などの視点から捉えられます。 PMC+1
特に「腎精(じんせい)/腎陰(じんいん)・腎陽(じんよう)」の減衰、あるいは「肝腎(かんじん)陰虚(いんきょ)」「腎陽虚(じんようきょ)」「気血(きけつ)不足」「瘀血(おけつ)」「風寒湿(ふうかんしつ)」「経絡拘攣(けいらくこうれん)」などが、関節痛・こわばり・可動域低下・筋骨の衰弱をもたらすと考えます。 J-STAGE
例えば、関節のこわばり・痛み・動きにくさを「風(ふう)・寒(かん)・湿(しつ)」が関節・経絡に侵入して起こる「風寒湿痺(ふうかんしつひ)」の症とも解釈されます。また、年齢を重ねた女性では「腎虚(じんきょ)」「血虚(けっきょ)」「筋骨無力(きんこつむりょく)」という状態と観られ、これが関節痛・疲れ・筋萎縮などの因となるとされます。 White Hart Clinic
つまり、東洋医学では「更年期における関節痛=ホルモンの低下だけでなく、気・血・精・筋骨・経絡のバランスの乱れ」 と捉え、そのため治療・養生には多方面のアプローチを要します。
(2) 治療法(鍼灸・漢方・養生)
① 鍼灸・経絡治療
鍼灸により、経絡の気血流通を改善し、「筋・骨・関節」を養い、痛み・こわばりを軽減するという方法があります。例えば、「三陰交(SP6)」「太渓(KI3)」「太冲(LV3)」「足三里(ST36)」などの穴位が更年期症状に頻用されるという報告があります。 サイエンスダイレクト+1
また、鍼灸・灸法・電気鍼・温灸を併用することで、寒・湿・拘攣などの関節症状に対して温め・流通促進・気血補養のアプローチがなされます。例えば、膝関節痛・腰関節痛に対し「陽気を補う・寒を除く・湿を除く」治療法が使われることがあります。
② 漢方・和方(日本の漢方)
更年期・筋骨・関節関連症状に対して、漢方医学では「補腎(ほじん)」「養血(ようけつ)」「活血(かっけつ)」「疏肝理気(そかんりき)」などの処方が用いられています。例えば、関節痛を伴う更年期症状に有効とされる漢方薬の評価も行われています。 J-STAGE
具体的な処方名まではここで述べませんが、「腎陰虚+血虚」タイプ、「腎陽虚+寒湿」タイプなど、証(しょう)に応じて処方を選択します。
③ 養生・食養生・運動養生
東洋視点での養生としては、
- 「腎を養う」ために冷えを避け、下半身・腰・膝を温める。
- 「肝気を巡らせる」ためにストレスをためず、軽めの運動・ストレッチ・散歩を習慣化。
- 「気血を補う」ために、血を養う食材(黒豆・黒ごま・鶏肉・レバー・緑黄色野菜など)を積極的に。
- 「湿を除く」ために、湿度の高い季節・場所では除湿・軽運動・足湯・温灸などを活用。
- 「経絡を動かす・筋骨を養う」ために、ゆるやかな体操・ヨガ・太極拳・ゆる体操などを取り入れる。
また、関節に負荷のかからない運動(太極拳・ラジオ体操・ウォーキング)を継続し、寒冷・湿気・冷えから関節を守るという習慣も重視されます。例えば、膝が冷える・湿気の多い部屋では冷えが増して痛みを誘発しやすいとされます。
食養生としては、辛すぎ・冷たい食べ物・生ものを控え、「温補(おんぽ)」の食材(根菜・温性の魚・鶏肉・ナッツ類)を使うことが薦められます。例えば、黒胡麻・松の実・山芋・鶏肉・生姜・にんにく等が「滋腎・強筋骨」の援助とされることがあります。
(3)東洋医学的養生のポイント
- 身体を冷やさないこと(冷え=関節痛を促す重要因)。特に腰・下肢・膝は冷えやすいため、保温・温灸・足湯等を習慣に。
- 運動・ストレッチを習慣化し、関節・筋・腱・靭帯の流れ(気血)を保つ。毎日10〜20分でも継続が大切。
- 暴飲暴食・過度のストレス・睡眠不足を避け、肝気鬱結(かんきうっけつ)にならないように心身を整える。
- 湿気を避ける・過度な水分・冷たい飲食を控え、身体の中に“湿”が停滞しないように配慮。
- 食養生:温性食材・黒・赤・根菜・良質のタンパク質・適量の脂肪を意識し、筋骨を養う。
- 定期的に漢方相談・鍼灸治療を受けることで、個々の体質(腎陽虚・肝腎陰虚・血瘀など)に応じたケアが可能。
3.両視点の統合と実践的アドバイス
(1) 病態理解の融合
更年期におけるエストロゲン低下は西洋医学的に「軟骨・滑膜・筋・骨の保護要素の喪失・炎症促進」につながるとされ、東洋医学的には「腎精・腎気の衰え」「筋骨・経絡の養い不足」「寒湿・血瘀の影響」と捉えられます。両者を統合すると、「ホルモン低下+筋骨弱化+関節環境悪化+生活習慣変化(運動量低下・体重増加・冷え・湿気)」が複合的に作用して、更年期女性の関節痛・こわばりが起こりやすくなると理解できます。
また、慢性的なこわばり・筋力低下・可動域減少・痛みによる活動制限は、さらに関節を悪循環に陥らせるため(筋量低下→関節支持力低下→痛み→運動回避→更なる筋量低下)、両視点から早めの対策が重要です。
(2) 治療・ケアの融合的アプローチ
西洋医学的には運動・体重管理・栄養・適宜鎮痛 or HRT検討が基本となり、東洋医学的には鍼灸・漢方・養生・食養生が補助的または統合的に有用です。
例えば、日常的には「週2〜3回の軽・中運動(筋力+柔軟)」「温め・冷え対策」「良質タンパク+ビタミン・ミネラル豊富な食事」「適正体重維持」「睡眠・ストレス管理」が基盤。そこに「月1〜2回の鍼灸」「漢方相談」「体質に応じた処方」などを加えることで、関節痛・こわばり・活動制限を軽減しやすくなります。
痛みが日常生活に支障をきたす場合や関節変形が明らかな場合には、西洋医学的整形/リウマチ科受診が優先ですが、その際にも東洋医学的なケアを併用することで、疼痛緩和・可動域改善・生活質(QOL)向上につながる可能性があります。
(3) 実践的な養生ポイント(チェックリスト形式)
- 冷え対策:下半身・腰・膝を冷やさない。夏でも冷房対策・冬は保温+足湯など。
- 適度な運動習慣:たとえば週3日、20分~30分ウォーキング+膝・股関節ストレッチ+筋トレ(スクワット・レッグカール等)。
- 筋力維持・筋肉量確保:タンパク質(体重×1.0~1.2g/日目安)・動的運動を意識。
- 体重管理:BMI25以下・腹囲を意識し、脂肪過剰を避ける。
食事内容:
- 良質タンパク質(魚・鶏肉・豆製品・乳製品)
- 野菜・果物を1日5〜7皿相当
- 鉄・カルシウム・ビタミンD・ビタミンK・オメガ3脂肪酸を意識
- 冷たい飲食・生もの・過度のアルコール・甘いものを控える
養生(東洋視点):
- 夜遅くまで起きない・睡眠確保(6〜7時間以上)
- ストレスをためない(軽い散歩・深呼吸・趣味タイム)
- 湿気・冷え・風寒湿を避ける(特に梅雨・夏の湿気対策、冬の暖房+乾燥)
- 月に一度は鍼灸・漢方相談などを検討
日常動作の見直し:
- 無理な姿勢を長時間続けない(立ち仕事・デスクワーク時にこまめに動く)
- 階段・椅子の昇降・スクワット動作などで膝・股関節の筋を使う
- 家事・育児で膝・腰を酷使しないように動線を工夫
(4) 注意すべき点
- 関節痛が急激に増悪/明確な腫れ・発赤・熱感を伴う場合には、単に更年期関連だけでなく、リウマチ・感染・変形性関節症の急性期など幅広く鑑別が必要です。西洋医学的な検査(血液・関節画像・リウマチマーカー等)を受けることも重要です。
- ホルモン補充療法(HRT)には適応・禁忌があります(例:既往に乳がん・子宮体がん・血栓症リスクなどある場合)。関節痛軽減が主目的でHRTを開始する際には、婦人科・専門医と十分な相談が必要です。
- 漢方・鍼灸など東洋医学的手法も「体質・証」によって合う・合わないがあるため、信頼できる漢方医・鍼灸師と相談の上で取り入れることが安心です。
- 養生・運動・食事を行っても痛み・可動域制限・生活支障が継続する場合には、整形外科・リウマチ専門医へ早めに相談を。進行性の変形性関節症・骨粗鬆症・リウマチなどの可能性も見逃さぬことが大切です。
4.まとめ
更年期における関節痛は、「ホルモン変化+筋骨・関節環境の低下+生活習慣変化」が複合したものと理解できます。西洋医学・東洋医学双方の視点を併用することで、治療・養生・予防へのアプローチが広がります。
まずは日常の養生(運動・体重管理・冷え予防・栄養)を基盤に、痛みやこわばりが強ければ整形・婦人科・漢方・鍼灸いずれか(または併用療法)を検討すると良いでしょう。早めに手を打つことで、関節機能の維持・QOL(生活の質)向上に繋がります。
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