梅雨になると身体が重い理由 〜東洋医学から読み解く「湿邪」と弁証論治〜

梅雨の時期になると、

「お客様がむくみを訴えることが増えた」
「身体が重だるいという相談が多い」
「頭痛やめまい、自律神経の不調を訴える方が増える」

そんな経験はないでしょうか。

臨床では季節によって現れやすい症状に一定の傾向があります。

特に梅雨は、東洋医学において「湿邪(しつじゃ)」の影響を強く受ける季節です。

施術者にとって重要なのは、症状だけを見るのではなく、その背景にある病機を理解することです。

今回は梅雨に多い不調を東洋医学の視点から整理し、弁証論治の考え方を解説します。

湿邪とは何か

東洋医学では、風・寒・暑・湿・燥・火の六つの外邪を「六淫(りくいん)」と呼びます。

梅雨の時期に最も問題となるのが湿邪です。

湿邪には主に三つの特徴があります。

① 重濁性(じゅうだくせい)

身体を重くする性質です。

頭重感、四肢の重だるさ、倦怠感などが代表的です。

患者さんが

「身体に鉛が入っている感じ」
「朝から身体が重い」

と表現する場合、湿邪の存在を疑います。

② 粘滞性(ねんたいせい)

症状が長引きやすい性質です。

慢性的な疲労感やむくみ、湿疹、鼻炎などが改善しにくい場合、湿邪が関与していることがあります。

施術後の反応が鈍いケースや、改善と悪化を繰り返すケースにも見られます。

③ 下向性(かこうせい)

湿邪は下降する性質を持ちます。

そのため、

・下肢のむくみ
・膝の違和感
・股関節周囲の重だるさ

など、下半身症状として現れやすい特徴があります。

なぜ梅雨に不調が増えるのか

東洋医学には

「脾は湿を嫌う」

という言葉があります。

ここでいう脾とは解剖学的な脾臓ではなく、

・運化作用(消化吸収)
・昇清作用
・統血作用
・水液代謝

などを担う機能単位を指します。

湿度が高くなると脾の運化作用が低下し、水湿が停滞します。

すると、

・食欲不振
・胃もたれ
・軟便
・疲労感
・むくみ

などが現れます。

特に脾気虚や脾陽虚を背景に持つ方は、梅雨の影響を受けやすい傾向があります。

梅雨に多い弁証論治

① 脾虚湿盛

臨床で最も遭遇しやすい病証です。

主症

・身体が重い
・疲れやすい
・食欲低下
・軟便
・むくみ
・胃もたれ

病機

脾気不足により運化作用が低下し、水湿が停滞している状態。

治法

健脾化湿

脾気を補いながら湿を除去します。

方剤例

・六君子湯
・参苓白朮散
・補中益気湯

施術のポイント

脾胃の機能改善を中心に考えます。

また、単に局所症状を追うのではなく、消化機能や睡眠状態、食習慣まで含めて評価することが重要です。

② 湿熱

湿邪が長期間停滞し、熱化した状態です。

主症

・身体の重だるさ
・顔面の脂っぽさ
・湿疹
・ニキビ
・口苦
・尿黄

病機

湿と熱が結合し、気機の流れを阻害している状態。

治法

清熱利湿

熱を取りながら湿を排出します。

方剤例

・茵蔯五苓散
・竜胆瀉肝湯
・三仁湯

臨床のポイント

炎症性の皮膚症状やストレス要因が強いケースでは、湿熱を考慮する必要があります。

③ 痰湿

湿が長期間停滞し、痰へと変化した状態です。

主症

・頭重感
・めまい
・痰が多い
・肥満傾向
・眠気

病機

脾失健運によって生じた湿が痰へ変化し、清陽の昇発を妨げている状態。

治法

燥湿化痰

湿を乾かし痰を除去します。

方剤例

・二陳湯
・半夏白朮天麻湯

臨床のポイント

頭部症状や慢性的な疲労感を訴える方では、痰湿の有無を確認することが重要です。


セラピストが持つべき視点

梅雨の時期は、肩こりや腰痛などの運動器症状であっても、その背景に湿邪が存在しているケースが少なくありません。

同じ肩こりでも、

・気滞による肩こりなのか
・血瘀による肩こりなのか
・湿邪による重だるい肩こりなのか

によって施術方針は変わります。

東洋医学の醍醐味は、症状名ではなく病機を診ることにあります。

お客様が訴える「重い」「だるい」「むくむ」という言葉の奥に、

どのような病理変化が起きているのか。

脾虚なのか。
湿熱なのか。
痰湿なのか。

その本質を見極めることが弁証論治の第一歩です。

梅雨は湿邪を学ぶ絶好の季節です。

季節と病機を結びつけて考える習慣を持つことで、施術の見立てはさらに深まり、お客様への説明にも説得力が増していくでしょう。

SATOセラピストスクール代表
鍼灸師|鍼灸専門学校の教員資格保有

長年にわたる技術指導やスタッフ教育の経験を活かし、「わかりやすく」「実践に取り入れやすい」セミナーの開催を心がけています。

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

最近の記事
  1. 梅雨になると身体が重い理由 〜東洋医学から読み解く「湿邪」と弁証論治〜

  2. 関節エステプロフェッショナルアカデミー「第4回合同マスタークラス」にてサポートをさせて頂きました。

  3. 鍼灸治療の禁忌(Contraindications)

  4. かかとの痛み(heel pain)の原因・病態・治療

  5. 肩関節周囲炎に対する整体・オイルトリートメントの施術アプローチ

  6. 肩関節周囲炎(いわゆる“四十肩・五十肩”)の東洋医学的アプローチ

Instagram でフォロー
PAGE TOP