創傷治癒における5段階の生体反応とその病態生理 ― 組織破壊から瘢痕委縮まで ―

創傷治癒の過程(一般的な4段階)

  1. 止血期(Hemostasis)
     出血が起こるとすぐに血管が収縮し、血小板が集まって血栓を形成し止血します。これは数分〜数時間で完了します。

  2. 炎症期(Inflammatory Phase)
     白血球(主に好中球やマクロファージ)が傷口に集まり、細菌や異物を除去します。赤み・腫れ・痛みが見られることがあります。期間は通常1〜3日程度。

  3. 増殖期(Proliferative Phase)
     繊維芽細胞がコラーゲンを作り、血管新生(新しい血管の生成)や肉芽組織の形成が進みます。上皮細胞の移動により、傷口がふさがり始めます。期間は数日〜2週間程度。

  4. 成熟期・再構築期(Maturation / Remodeling Phase)
     コラーゲンが再配列され、傷が強くなります。時間をかけて傷跡が落ち着き、完全に治癒へ向かいます。期間は数週間〜数か月に及ぶこともあります。

※補足として、糖尿病や栄養状態の悪化、高齢、感染などがあると、この治癒プロセスが遅延することがあります。

創傷治癒の過程(一般的な4段階)

段階 英語表記 主な反応 関与細胞 期間の目安
止血期 Hemostasis 血管収縮、血小板凝集、血栓形成 血小板、血管内皮細胞 数分〜数時間
炎症期 Inflammatory Phase 好中球・マクロファージによる異物排除、炎症性サイトカイン放出 好中球、マクロファージ 1〜3日
増殖期 Proliferative Phase コラーゲン産生、血管新生、肉芽組織形成、再上皮化 線維芽細胞、内皮細胞、ケラチノサイト 数日〜2週間
成熟期・再構築期 Maturation / Remodeling Phase コラーゲン再配列、瘢痕成熟、強度の向上 線維芽細胞、マクロファージ 数週間〜数か月

 

5つの主要段階

創傷治癒は単なる「傷がふさがる」現象ではなく、極めて精緻な生体調節システムに基づくプロセスです。この過程は、以下の5つの主要段階に整理され、それぞれに特有の細胞・分子反応が関与します。


1. 組織破壊(Tissue Destruction)

創傷治癒の出発点は、外傷・手術・熱傷などによる組織破壊です。表皮や真皮、さらには血管や結合組織が損傷を受けることで、局所に出血や細胞死が発生します。破壊された組織は即座に止血反応を誘導し、血小板が活性化されて血栓が形成されます。


2. 炎症反応(Inflammatory Response)

止血後すぐに炎症反応が始まります。好中球やマクロファージが傷口に遊走し、壊死組織や病原体を除去します。マクロファージは同時にサイトカインや成長因子(例:TGF-β、VEGF)を分泌し、後続の修復過程を促進します。炎症が過剰または長引くと、治癒の遅延や慢性創傷へと進行する可能性もあります。


3. 細胞増加(Cell Proliferation)

炎症期を経て、線維芽細胞や内皮細胞、角化細胞などが活発に細胞増加を開始します。この段階では、肉芽組織の形成、血管新生、基底膜の再構築が同時に進行します。ケラチノサイトの移動と分裂により、表皮の再生(再上皮化)も起こります。ここでの組織再生は、傷の閉鎖において非常に重要なステップです。


4. 瘢痕増生(Scar Formation)

細胞増加が進行する中で、線維芽細胞がⅠ型およびⅢ型コラーゲンを豊富に産生し、瘢痕増生が始まります。この瘢痕組織は、本来の皮膚とは異なり弾力性や機能性に乏しいものの、損傷部位を力学的に保護する役割を果たします。過剰なコラーゲン産生は肥厚性瘢痕やケロイドの原因となることもあります。


5. 瘢痕委縮(Scar Maturation and Atrophy)

治癒の最終段階では、コラーゲンの再配列と線維の収縮により、瘢痕委縮が起こります。この過程で瘢痕は次第に柔らかくなり、色素沈着も時間とともに改善されます。線維芽細胞のアポトーシスや血管の退縮も観察され、成熟瘢痕へと移行します。完全な皮膚構造が回復することは稀ですが、機能的には十分な強度を回復することが多いです。


おわりに

創傷治癒は、「生体の再生力」と「病態制御力」の両面から理解されるべき複雑なプロセスです。これらの知識は、臨床現場における創傷管理や感染予防、また褥瘡ケアなどにも直結する極めて実践的な内容です。

SATOセラピストスクール代表
鍼灸師|鍼灸専門学校の教員資格保有

長年にわたる技術指導やスタッフ教育の経験を活かし、「わかりやすく」「実践に取り入れやすい」セミナーの開催を心がけています。

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